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加藤 孝司/KATO Takeshi
Design, Real Landscapes

デザイン・ジャーナリスト。東京は浅草生まれ。建築・デザインを横断的に探求、執筆。
デザイン誌や建築誌などへの寄稿をはじめ、2005年よりはじめたweblog『FORM_story of design』では、建築、デザイン、映画や哲学など、独自の視点から幅広く論考中。
http://form-design.jugem.jp


月別アーカイブ: 11月 2011

フォックスファイアーが今につたえるもの 2.


フォックスファイアーを編集した学校がある一帯であるグレートスモーキー・マウンテン地方は、国立公園に指定されているエリアで、東ヨーロッパからの入植者が多い地域。比較的なだらかで一年を通して温暖な気候と、豊かな緑と山に囲まれた風土が彼らの祖国の環境と近いことから、木工を中心とした素朴だが、独自の文化が彼らの入植以来築かれ、大切に受け継がれてきたという。

エリオット・ウイギントン先生の指導のもと高校生たちは、そんなマウンテン地方の人びとが日常に使う生活道具や、日用品に姿かたちをかえて伝えられてきたものづくりの技術や生活のなかで育まれた知恵、山岳地方の風土に根ざした建築や、その建設方法などを、彼らのおじいちゃんのようなお年寄りから聞き書きしたレポートがフォックスファイヤーということだ。

コミュニケーションや国語が得意な学生は文章を、絵が得意なものはイラストを書き、写真が得意な学生は写真を撮って記録した。それをウィギントン先生が中心となって編集し一冊の小さな冊子にまとめた。それが’67年に発行されたフォックスファイアーの記念すべき第一号である。あのアップルのスティーブジョブスも大きな影響を受けたという、アース・ムーブメントの伝説的な雑誌「ホール・アース・カタログ」第一号が発行される1年前のことである。

ページをざっとめくっていくと、本文は英語なのでその内容はほとんど分からないのだが、往時の生活を伝えるモノクロの写真やフリーハンドで描かれた独特のタッチのイラストが掲載されていて面白い。その内容は、この地方の自然や生活風景の写真からはじまって、ハンディクラフトの歴史、おじいちゃんやおばあちゃんたちが日常つかっている道具や、それでつくった素朴だが必要から生まれた日用品や楽器などの嗜好品、その構造や製造方法、そしてそれをつくる手のクローズアップ写真など。ペラペラとページをめくりながらそれを見ているだけでも、この地方独特の暮らしや習慣がいきいきと伝わってくる、十分に見応えがある内容になっている。

このとき松野さんに見せてもらったのは、そのオリジナルとなる小冊子をのちにソフトカバーの書籍にまとめたものだが、一冊だけでもかなりの厚みと情報量があり、僕がみせてもらっただけでも「4」のチャプターがついている。フォックスファイヤーは当時全米で百万部以上が売れ、ベストセラーになったという。
僕が10代だった’70年代には、コカコーラやIBMなどの当時最先端のアメリンカンカルチャーを中心とした西洋的なライフスタイルが憧れとともに市場を席巻しており、企業コマーシャルに関連したさまざまなグッズや遊びの道具が、僕ら子どもたちの日常にまで影響を与えていた。それはただ製品を売るだけのためではなく(それが商品を売る方法でもあったのだが)、新しいライフスタイルとして、アメリカンヨーヨーやスケートボードなどのホビーにかたちを借りて入り込んでた。
僕ら子どもたちはそれら新規な遊びに飛びついた。そのころの僕らには思いも及ばないことだが、そこには単に都会的な遊びというものだけではなく、フォックスファイヤーやホールアースカタログなどに代表される、人間にとってもっと自由で根源的な、シンプルな暮らしや、自然への回帰といった視点も含まれていたのかもしれない。
今思えばフォックスファイアーにも綴られていた、手づくりの道具、キャンプやスクールといった、当たり前で身近な日常生活への冒険には、消費社会が根拠とするものとは別の価値観の片鱗がそこには確かにあった。

(3につづく)


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